才をひっぱたいた日-その参


「だってお前、遊が女の子用の紙に名前を書いて、
それを見て『消えろ』って言ったんじゃないのか?」
「違うよ、父ちゃん。遊は緊張してたみたいで、それで
間違えて女の子用の紙に名前を書いちゃったんだよ。
たまたま才とアキラがそこにいたからさ、遊に
『ドンマイ』って声を掛けてやったんだよ。
どうして『消えろ』なんて言うんだよ、遊に。」

その言葉に微塵の嘘もないことは、才の目を見れば明らかだった。
「ドンマイ」がなぜ「消えろ」になったかは、もはやどうでもいい。
全身の血の気が引くのが、自分ではっきり分かった。

「じゃあ俺は、遊の言うことだけ一方的に聞いて、
みんなが見ている前でお前の横っ面を…。」
あたしにできることは、もはやただ一つだけだった。
それは言うまでもなく、才に謝ることである。
「才、すまない。俺が悪かった。みんなの前で恥をかかせちまった。」
そう言おうとするあたしの言葉途中で、才が一際大きな声で
「父ちゃ~ん!」とわめくように泣きながら、あたしの体にかじりついてきた。


「すまねえ、才、すまねえ…。」
才を抱きしめながら、あたしも涙をこらえられなかった。
「俺を殴るなり蹴るなり、好きにしてくれ。」
あたしがそう言うと、才は体を離しながら言った。
「そんなこと、できるわけないじゃないか。」
あまりの面目なさにあたしが「だってお前…」と言うと、
才は、二度、「仕方ない…。仕方ないよ。」と繰り返した。
一度目は下を向いたまま自分を納得させるように呟き、二度目は
涙いっぱいの目であたしの方をしっかりと見て、口をぎゅっと結んだ。
その健気な様子に、あたしは不覚にも声を出して泣いた。
自分の短気を呪いもしたが、すべては後の祭りである。

落ち着いてから顔を洗って、才は再び児童館へ行った。
「遊と一緒に遊んでくるから。」
その行動にいくぶん救われたあたしではあったが、
しばし放心状態から抜け出すことはできなかった。


<次回に続きます>

2006 / 04 / 18 ( Tue ) 21:00:38 | ガキンチョ日記 | TrackBack(0) | Comment(9) | トップ↑
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コメント
タイトル:難しいですが

私には4人の子どもがおります。
兄弟けんかは日常茶飯事。
それぞれが相手を訴えてきます。
ここで一方の申し立てだけで裁定を下すと、
とんでもない事になります。

長男は高校生、次男は中学生、三男長女は小学生。
それぞれに知恵もつきます。
油断がならないです。
それだけに裁定は慎重に下します。

私はジュニアラグビークラブのコーチを15年やってます。ここでも同じような事は起こります。自分で現場を見ていれば別ですが、かたほうの言い分だけをきくのは危険ですね。
名前: びーまー #Y3Bub7S6 : 2006/04/18 21:44 :URL [ 編集] | トップ↑
タイトル:まったくその通りです

あたしが落ち着いて長男の言い分を聞けば
こんなことにはならなかったはずなんです。
でも、そこが性格というのか性分というのか…。

予定ではもう一回分あります。
そちらも是非お読みくださいまし。

名前: 新三 #brXp5Gdo : 2006/04/18 23:10 :URL [ 編集] | トップ↑
タイトル:

流石江戸っ子! ちゃんと子供に謝ることの出来る大人は偉いです。 って、まだ続くんですか?(笑)
名前: R* #cDvBsRdY : 2006/04/19 07:39 :URL [ 編集] | トップ↑
タイトル:おはようございます

>って、まだ続くんですか?(笑)
あはは、長いですか?
今回はエッセイに仕立てるのが眼目です。
日頃、いい文章を書きたいと思っているので、
その鍛錬のためとでも言うのでしょうかね。
もちろんこの出来事そのものを忘れないためでもあります。
そして、こうして書くことで、あたしという人間を
ちょっとだけムキダシにしてしまうのも目的です。

あと一回、お付き合いください。

名前: 新三 #brXp5Gdo : 2006/04/19 08:55 :URL [ 編集] | トップ↑
タイトル:こんにちワン♪

R*さんのおっしゃるとおりです!
親だって人間。間違いもあります。
子供に謝るってなかなかできないですよ。
(私はアホなもんでしょっちゅうですが)
これでまた長男との絆が深まったのですね♪
これでまた新三さんLOVEになりましたわ。(笑)
んんんんんん~~~~ん ぶちゅ♪
名前: ゆみ #- : 2006/04/19 13:41 :URL [ 編集] | トップ↑
タイトル:あはは、ゆみごん!

「ぶちゅ♪」は、確かに受け止めましたぜ。(笑)

子供に謝るって、滅多にないことだとは思います。
でも、こっちが悪けりゃ謝るしかないですよね。
いやいや、子供が相手でなくても、なんて言うんでしょうか、
「悪いと思ったら謝る」ってのは人付き合いの基本かなって。

もっとも、悪いと知りつつちょっかいを出して、
なおかつ謝れなくなってしまうなんてケースもありますけどね。

おっと、唇が腫れてきた…。


名前: 新三 #brXp5Gdo : 2006/04/19 21:48 :URL [ 編集] | トップ↑
タイトル:やっぱり~

新三さんの早とちりでしたね(^_^;)
しかし、言い分を聞いて謝るのがいいですね。
年上なら全てが通る、社会的身分が高ければ言うことは全て通るような風潮が多い中、この行動は取れるものではないでしょう。
学校にこんな先生が多ければ「荒れる」なんてないのでしょうね。

それで~「消えろ」の顛末は如何に?
名前: 尹 大植 #GCA3nAmE : 2006/04/20 10:30 :URL [ 編集] | トップ↑
タイトル:今回はエッセイ風ですか?

子育ての経験のない私には、へえ~という感じです。でも本当に、素直に謝ることのできる新三さんは立派です!

先を読まれないようにするには、前回の記事で遊くんの言い分を一方的に信じるに至った新三さんなりの理由を書いておく必要があったでしょうね。読者って、かなり厳しいものです。
この話にはオチがあるんでしょうか。次も楽しみにしてますね~。
名前: ゆすらうめ #xsrTc1W6 : 2006/04/20 11:40 :URL [ 編集] | トップ↑
タイトル:今晩は~♪

ユンテシさん
読み通りの展開でしたね。
あたしのこういう性格は、死ぬまで治らなさそうです。
先生になるのは真っ平ごめんです。
文部省(現、文部科学省)が嫌いだという理由で、
教員免許を取ろうとしなかったあたしです。

ゆすらうめさん
一つの話を幾つかに分割するのは、難しい。
先を読まれてもそれは仕方ないことだと思うんですが、
書くときのテンションが、その都度違うんですよ。
やはり、まとめて全部書き上げておいてから
それを分割してUPした方が良かったかもしれません。
あるいはHPの中にコンテンツを設けて、一度にUP…。

息子に謝ったことを、今までも皆さんから褒めていただきました。
大人って、そんなに謝らないものなのでしょうか。
あたしゃおっちょこちょいでヘマばかりしてますんで、
すぐに謝っちまいますぜ。


名前: 新三 #brXp5Gdo : 2006/04/20 18:02 :URL [ 編集] | トップ↑
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