ちょっと気になったこと ⑤


普段の家庭における食事を思い浮かべていただきたい。
食事の感想として、「あまい」だの「とける」だのと言うだろうか。
グルメリポーターは、言うのである。
刺身を食っちゃ「あまい」、牛肉を食べちゃ「とける」、
これはもう一つ覚えとしか言い様がないほどの連呼ぶりだ。
はっきり言っておくが、「あまい」魚はないし「とける」肉もない。

ではなぜ刺身が「あまい」と表現されてしまうのか。
それは、「甘味を感じる」という表現を知らないからだ。
肉が「とける」と表現されてしまうのも似たようなもので、
そういう肉は「とけるようだ」という表現が正しいと言える。

海の生物ではイカなどが甘味を持つ代表格かと思うが、
そういう成分があるだけで食品として「あまい」訳ではない。
マグロのトロには脂の甘味があるが、やはり「あまい」ものではない。
肉が「とける」ように感じるのは脂が多い何よりの証拠であって、
本当に「とけて」しまったらそれはもう肉とは言えない代物だ。
軟らかく調理されていることと「とける」こととは違う。

だが、ここまでは許容範囲なのだ。
言葉が既に市民権を獲得してしまっている。
それに対して異議申し立てをしようとは、私は思っていない。
事の本質は別のところにある。

それは、
「あまい」「とける」が褒め言葉になるとは限らないということだ。
料理人は常に素材の持ち味を引き出すことだけに専念しているものだ。
いい料理人であればあるほどそういう傾向が強いことを、私は経験している。
中トロの握りを「あまい」と言われたら、寿司の職人は腹を立てることだろう。
脂の甘味と赤身の酸味のバランスが中トロの持ち味だし、もっと根本的には、
寿司はシャリとネタとのバランスこそが味を決する生命線だからである。

牛肉が「とける」というのも、脂偏重の哀れな顛末なのではないか。
肉は、ギュッと噛んで食べてこそその持ち味を堪能できるものだ。
ムースのような料理が「とける」ならともかく、肉には不適な表現だろう。
考えてもみて欲しい。
アイスクリームを食べて、わざわざ「あまい」と言う人があろうか。
アイスクリームが口中に広がった時に、「とける」と言うだろうか。
「あまい」の「とける」のは、本来そうでないものがそういう感じになる…、
そういった驚きを表現する一種のパラドクスであるに過ぎない。

繰り返すが、使うことに異議を申し立てるのではない。
連発・頻用を極力避けて、自分の言葉で表現してもらいたい。
そのためには、自前の舌に味を叩き込み、経験を積むことだ。
「あまい」「とける」と言えば済むという安易な考えを捨てることだ。
2012 / 11 / 22 ( Thu ) 16:38:19 | 日記 | TrackBack(0) | Comment(0) | トップ↑
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