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料理をつくる人は何を考えているか、という話、の続き


前回とは変わって、今回の舞台はフランス料理屋です。
ガラ・ディナーの誘いがかかってカミさんと二人で出向いたのは広尾の某有名店、
ガラ・ディナーですから隣のカミさん以外は見知らぬ人と卓を囲むことになります。
私が料理をつくる人だということは、カミさん以外の人は誰も知りません。
アメリカの料理評論家の何とかいう御仁も卓にいて、なかなか賑やかです。
で、そういう知らない方々と適当な話をしながら食事やワインが進んでいって、
そろそろメインになるという頃合いにブルゴーニュの赤が供されました。
そのワインを一口飲んで私はホールスタッフに一言耳打ちをしました。

 ぬるいよ。

意外そうな表情を見せるボーイ君に、「ちょっと冷やしてよ。」ともう一言。
カミさんではない隣の方が何を言ったのか知りたがったので、内容を教えました。
するとその彼は、「え?赤ですよね。常温が基本じゃないんですか。」とおっしゃる。
彼が戸惑っているときに、アメリカの御仁が声を上げました。

 A very good wine, but there is a problem.

こうなると、テーブル全体が騒然としてきますね。
今度は皆に向かって、私がボーイ君へ言ったことを繰り返しました。

 このワイン、温度が高すぎるんです。

こうなると、ちょっとした騒動です。
赤だから室温でいいんだという常識派が多数を占めるものの、貫禄たっぷりの
アメリカの何とか評論家が異議申し立てをして私がそれをフォローする。
私が何を言ったか御仁が尋ねるので、

 This wine should be chilled a little.

と、私の感じたことを伝えてみたんですね。
すると御仁は、

 Oh, right !

などと言って、大いに共感を表してきます。

とても出来の良いワインだったのですが、温度の関係で輪郭がぼやけていました。
悪くはないけれどやや散漫、とくに香りの面でそういう印象が強かったのです。
そこで私はボーイ君に少し冷やしてくれるよう頼んだという訳なのです。
私ひとりがそんなことを言っても誰も耳を傾けなかったに相違ないのですが、
アメリカの御仁は貫禄をたたえたチャーミングな好漢でしたので、
さすがに彼がダメ出しをしたら皆も「そうなのかも」と感じ始めたのでしょう。

ボーイ君が「これぐらいでいいですかね。」と、少し冷やした瓶を持ってきました。
グラスに注いでもらって一口飲んで、私は唸ってしまいました。

 おお、これは想像以上だ。

温度が下がったことで全体がぐっと引き締まり、香りの粒がはっきりと際立っています。
口中で遊ばせてから飲み込むと、力強い味を感じさせつつ軽快に喉を滑り落ちます。
そして飲み下したあとに抜けてくる香りも、先ほどとは比較にならない豊かさです。
もはや「美味しんぼごっこ」とも言える領域ですが、これが料理人の性なのです。
一口でワインのポテンシャルを看破して、最適な供出温度を求める。
料理や酒の温度が味に大きな影響を与えることを、いやというほど体験しているからです。
炊きたての熱い白飯や冷えすぎたビールの味が分かり難いのは、誰もがご存知でしょう。
それを一口のワインに感じるか感じないか、言ってしまえばそれだけのことです。
赤は室温という常識に縛られて酒の本質を見過ごしては、酒に申し訳ないでしょう。
ものの持ち味を100%発揮させること、これが料理の本質なのです。

冷えたワインを飲んで、皆さん納得してくださいました。
およそ粋とは言えない自分の行動を詫びましたが、皆さん寛大でした。
ディナーはその後も、楽しく美味しく続きました。

食事の最後に、桃を使ったデザートが出ました。
生とシャーベットを組み合わせたアイディアが秀逸で、皆さん大絶賛です。
と、かのアメリカがその味を表現するのに困惑している様子なのです。
それを見て、お節介だとは思いつつ助け舟を出してやりました。

 これは実にEROTICだ。

日本語の「官能的」ではなく英語の「erotic」、それが私の選んだ言葉でした。
味という形のないものを、言葉という道具を用いて形あるものに変化させる。
そういった感覚も、料理をつくる人には絶対不可欠のものです。
料理のことがわかっていて、なおかつ言葉を柔軟に使える二つの条件。
料理人に説明好きが多いのは、決して偶然ではないということです。

かの御仁は我が意を得たりとばかりに、「そうエロティック、エロティック!」と連呼。
広尾の夜は、無邪気な彼の愉快そうな笑いと共に更けていったのでした。
2015 / 09 / 09 ( Wed ) 11:50:44 | 日記 | TrackBack(0) | Comment(0) | トップ↑
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